リーガルテック(電子契約、契約ライフサイクル管理〈CLM〉、内部通報・規程管理、AIレビュー等)は、ここ数年で導入が進んでいます。とはいえ「実際にどのくらいの企業が使っているのか」を網羅的に示す統計はありません。
今回は、フェルミ推定を用い、「少なくとも1つのリーガルテックを導入している日本企業の社数感」を5つのステップで推計します。前提や比率は仮定であり、桁感(オーダー)をつかむことを目的とします。
STEP1:母集団を設定する
国税庁・総務省の公表値を踏まえると、日本の株式会社は概ね400万社。まずはこの全体数を起点にします。
STEP2:導入余力のある企業規模を抽出する
リーガルテックは、契約本数や承認フローが一定規模を超えるほど導入効果が高いため、投資判断が進みやすい傾向にあります。
ここでは、総務省や中小企業庁の企業規模別統計を参考に、企業全体に占める割合を次のように置きます。
- 従業員300名以上の企業を全体の約1%と仮定 → 400万社 × 1% = 4万社
- 従業員50〜299名の企業を全体の約2%と仮定 → 400万社 × 2% = 8万社
上記の4万社+8万社を「導入余力が相対的に高い層」として、計12万社と見積もります。
STEP3:契約件数の多い企業に絞る(需要母集団)
すべての企業で契約が頻繁に発生するわけではありません。製造・IT・金融・不動産・人材・広告などは取引契約・委託契約・NDA等が日常的に発生しやすい一方、店舗中心の中小・小規模業態などは件数が少ない傾向があります。
この違いを踏まえ、「契約業務が日常的に発生する企業」に対象を絞るために、次の比率を仮定します。
- 従業員数300名以上企業のうち、契約件数の多い企業を70%と仮定→ 4万社 × 70% = 2.8万社
- 従業員数50〜299名企業のうち、契約件数の多い企業を70%と仮定 → 8万社 × 70% = 5.6万社
これにより、2.8万社+5.6万社=計8.4万社を「リーガルテックの需要母集団」とします。
STEP4:最初に導入されやすい「電子契約」の普及率をかける
導入の第一歩として選ばれやすいのは電子契約です(紙・押印・郵送の置き換えで即効性が高いため)。需要母集団に対する普及率を仮定として置きます。
- 従業員数300名以上の企業のうち、電子契約の普及率を90%と仮定 → 2.8万社 × 90% = 2.52万社
- 従業員数50〜299名の企業のうち、電子契約の普及率を60%と仮定 → 5.6万社 × 60% = 3.36万社
この結果、電子契約導入企業は2.52万人+3.36万社=計5.88万社と推計されます。
STEP5:電子契約以外のツールと、小規模企業の導入を上乗せする
ここまでの推計は主に電子契約を中心に数えています。しかし実務では、AIレビューや契約ライフサイクル管理など、電子契約以外のリーガルテックから先に導入されるケースもあります。また、従業員50名未満の中小・小規模企業でも、取引特性によっては電子契約が広がっています。これらを控えめに上乗せします。
電子契約“以外”のみ導入している企業
需要母集団8.4万社から電子契約導入済みの企業5.88万社を引くと2.52万社が残ります。この中には、電子契約は未導入でも他のリーガルテックを使っている企業が一定数含まれます。25%が該当すると仮定すると、2.52万社 × 25% = 0.63万社となります。
小規模企業の電子契約導入
中小・小規模企業は総数が多い一方、契約件数・IT投資余力の観点から導入率は一般的には低めです。そこで中小・小規模企業のうち「契約が比較的頻繁に発生する企業」= 全体の5%と仮定します。
STEP1,2にて株式会社の総数を約400万社、うち大企業・中堅企業を約12万社と仮定したため、中小・小規模企業は約388万社となります。その5%は約19.4万社。その中で電子契約を導入している割合を10% と仮定すると、19.4万社 × 10% = 1.94万社となります。
これらの結果、
- 電子契約を導入している大企業・中堅企業:5.88万社
- 電子契約以外のみ導入している大企業・中堅企業:0.63万社
- 小規模企業で電子契約を導入している企業:1.94万社
→ 合計 8.45万社
そこから、複数ツールの重複計上や試用のまま利用停止となった企業を見込み、全体の10%を控除します。
すると、最終的な統計は8.45万社 × 90% = 約7.6万社、となります。
◆ 結論:日本でリーガルテックを導入している企業は「約7.6万社」
推計の結果はおよそ7.6万社となりました。あくまでラフな数字ですが、実はこうした“ざっくり仮説”こそが、戦略を考えるときの出発点になります。
法務の仕組み化を支援するパートナーとして
Strategy&Lawは、戦略コンサルティング×法務の知見を融合し、リーガルテックの選定・導入・運用定着まで一気通貫で支援いたします。
代表は弁護士資格を有し、法務業務の仕組み化を通じて企業成長を加速させます。 「どこから着手すべきか分からない」という段階からでも構いません。戦略立案から実装・定着まで、法務改革を伴走支援します。